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『ib』考察 レビュー -メアリーについて-【※ネタバレ注意】

ibのメアリーに関する考察

 

【注意!】本記事は『ib』のネタバレ、または筆者の考察/妄想を含む箇所があるため、あらかじめご了承ください。

 

 

 

●結局メアリーの目的はなんだったのだろう...

ibのストーリーを一言にまとめるなら、メアリーという絵画の女の子に意志が宿り、その欲望が異空間を作り出し、美術館の観客だったイヴとギャリーがそれにたまたま巻き込まれた、といったもの。その過程におけるイヴの行動/言動の選択によって、物語はいくつかの結末に分かれる。

 

筆者は全てのエンディングを迎えたが、それだけではメアリーの目的ははっきりとは分からなかった。外に出たいだけ、友達が欲しいだけのように、シンプルな目的とするには矛盾点や多々存在し、明確な説明がつかない。作品中でもギャリーが「単に私たちをからかいたいだけとは思えない」と発言したように、行動に一貫性が見られず、結局何がしたかったのか明確に分からずじまいだったので、ここで一度行動や言動を整理してみようと思う。

 

1.誰かを犠牲にして外の世界に出ること?

ibにて、父親に思いを馳せるメアリー

 

道中メアリーに語りかけると「雪って知ってる?」「お菓子をたくさん食べたい」など、外の世界に対するメアリーの憧れが非常に強いことが見て取れる。また、とあるエンディング後に真・ゲルテナ展のメアリーに話しかけると「お父さんも外にいるのかなぁ」と、父親を探しに行きたがる様子もうかがえる。

 

ibにて、メアリーが外に出るには入れ替わりの存在が必要らしい

 

しかし、この世界から外に出るためには、入れ替わりの対象が必要らしい。つまりメアリーが外に出るという目的を達成するためには犠牲が必要で、そのためにイヴとギャリーをこの世界に呼び寄せたと考えられる。しかし、単に誰かを閉じ込めて代わりに自分だけ外に出ることが目的なら、わざわざ2人を引き込む必要はないはず。つまり、わざわざイヴとギャリーの2人を異空間に連れ込む理由があったはずだ。

 

2.同年代の友達がほしかった?

ibにて、おとなを疎ましく思うメアリーの心情と思われる記述

 

壁の走り書きや手記にあるように、メアリーは大人という存在を疎ましく思っているように見える。美術館に訪れるのは大人ばかりで、同い年の子が来ず、ゆえに友達を作ることもできない。「大人だらけの退屈な場所を抜け出して、外の世界で友達を作ったり、話にしか聞いたことのないさまざまなことを体験したい」。

 

そんな思いが渦巻くさなか、珍しく同年代の女の子が美術館を訪れた。これを好奇と捉えたメアリーは、友達になるべくイヴを異空間に誘い込み、そして自分が外に出るための犠牲として、大人であるギャリーをも引き込んだ。

 

つまり、イヴはメアリーにとって初めての友達となりうる重要な存在であり、この世界に置き去りにしたり、ましてや殺害するメリットは一つもない。一方でギャリーは、自分が外に出るための身代わりでしかない。疎ましい大人の一人でありながらイヴと親しげに接する様子は、メアリーにとってかなり邪魔な存在だったに違いない。

 

ibにて、無個性の像をどかそうと必死になるメアリー

 

しかし、それにしては手際の悪さが目立つ。単にギャリーを犠牲に外に出るだけなら、さっさとギャリーを殺して(閉じ込めて)イブと一緒に外に出れば良かったはず。それが、なぜかメアリー自身も絵の中を彷徨い、ギャリーとイヴの手を借りずには先に進むことができずにいた。つまり、あの異空間はメアリーが目的を達成するために作った空間ではなく、メアリー以外の要因によって生まれた空間であることが考えられる。

 

3.メアリーが異空間を自由にコントロールできない理由

 

異空間がメアリーではなくゲルテナによって作られたことは、割と早い段階から想定できる。美術館に入って1つ目の『深海の世界』にある説明には、ゲルテナが「ヒトが立ち入ることは許されない世界を構築するため、私はキャンバスの中にその世界を作った」とある。もちろん、意図的に異空間を作ろうとしたかどうかは定かではないが、少なくとも彼の中には現世と異なる世界への憧憬があり、キャンバスはその世界を作るための不可欠な手段だったことがうかがえる。

 

 

物語の終盤に現れる、元々イヴとギャリーがいた現実世界の美術館を映し出す絵画。そのタイトルは『絵空事の世界』。現実の世界でありながら「絵空事」、つまり空想の世界と表現している点からも、ゲルテナは必ずしも現実の世界が本当の世界とは捉えておらず、むしろ自身の手によって生まれる作品の世界こそ、ゲルテナにとっての本当の世界だったと考えていたことがうかがえる。

 

もしかしたらメアリーの外界に対する羨望が、ゲルテナの思いを具現化(異空間化)させるきっかけにはなったかもしれないが、いずれにせよ、メアリー一人では脱出できなかったり、ギャリーにいとも簡単に突き飛ばされてしまう様子から分かるように、彼女はこの世界の一住人に過ぎないようだ。

 

4.本当は、ただギャリーとイヴに自分を受け入れて欲しかっただけなのかも

ibにて、イヴに手を挙げようとするメアリー

 

ここまでの情報をまとめると、メアリーの目的はイヴと友達になって外の世界を満喫することであり、その手段としてギャリー(大人なら誰でもよかった)を犠牲に選んだのではないか、と思える。

 

しかし、ギャリーによってメアリーの正体がバレた後、彼女はギャリーだけでなくイヴにも危害を加えようとした。パレットナイフで襲い掛かろうとするシーン、または玩具箱にイヴとギャリーを突き落とそうとするシーン、そして、メアリーの絵画がある部屋でまたもパレットナイフで襲い掛かろうとするシーンなど。貴重な友人となりうる存在であるイヴに期待を寄せる一方、その期待が裏切られることへの恐れから、自暴自棄になってしまったように思える。

 

ibにて、ギャリーとイヴを心配するメアリー

 

玩具箱に突き落とした張本人ながら、まるで二重人格のように2人の無事に安堵の表情を浮かべるメアリー。しかしその直後、自身のルーツである絵画を見られたくないメアリーは、再度二人に襲いかかるのであった。最後はどうすることもできず、メアリーの絵画を燃やすことで彼女自身も灰と化してしまうが、彼女の孤独と羨望の深さを鑑みると、単なる迷惑なメンヘラ女の末路と片付けるにはあまりにも悲しすぎる。

 

イヴに置いていかれると思って被害妄想を暴発させたり、自分の正体がバレたことで嫌われると自暴自棄になったりしたことで、意図せず危害を加えようとしたことは容易に想像がつく。本当はギャリーも含め、二人に対して恨みなどなかったのに、ただ友達になりたかっただけなのに、その焦りからああなってしまう他なかったのだろう。むしろ、それだけ彼女は追い詰められていて、選択の余地がなかったのだ。

 

 

一度ギャリーに突き飛ばされて気を失った後、スケッチブックの世界で2人を探しに追ってきたメアリーの表情は、怒りや焦りよりも、後悔や寂しさが現れている。家の前(マップの南側)には、ギャリーとイヴと一緒に笑顔で遊ぶメアリーの姿がクレヨンで描かれている。そして、家のテーブルには3人分の果実。さらには、ギャリーのためと思われるコートハンガーまでもが準備されている。これらの描写が表す通り、そもそもメアリーはギャリーを犠牲にするつもりは全くなかった、もしくは途中で心変わりがあり、ギャリーのこともまたイヴ同様に好きになっていたに違いない。

 

ibにて、ギャリーやイヴと戯れるメアリーの絵

 

メアリーの真の目的は、ギャリーを犠牲に外界へ出ることでも、自分を人間と偽りイヴと友達になることでもなく、ただ、友達がほしかっただけ、もっと言えば、異形のもの(絵画)である自分を受け入れてくれる相手が欲しかっただけなのかもしれない。もしそれが叶うのなら、たとえギャリーを犠牲にせず外に出れなかったとしても、メアリーは幸せだったのではないかと思う。

 

5.焼失してもなお残る、孤独への恐怖とイヴへの思い

ibにて、異空間に突如現れるイヴの母親

 

なんとか元の世界への出口にたどり着いたイヴの元に、唐突に現れるお母さん。「知らない人にはついていっちゃダメ!」と強引にイヴを異世界へ引き戻そうとするが、そもそもなぜゲルテナによって生み出された世界に、なぜイヴの母親の幻影が現れるのだろうとずっと不思議だった。

 

しかし改めてメアリーの言動や行動、思いを整理してみると、あれはメアリーがイヴに対して「行かないで!」と必死に抵抗し引き止めようとする思いから、イヴの大切な人=お母さんの姿となって現れたのかもしれない、という結論にいたった。

 

死してなお、永遠に続くともしれない孤独に対する恐怖、やっと出会えたイヴやギャリーが、自分を残して去ってしまう悲しさ。文字通りの絶望に追いやられたメアリーを思うと、イヴとギャリーが無事脱出した結末を「グッドエンディング」と言う気にはとてもなれなかった...。

 

 

ギャリー曰く、『あこがれ』はゲルテナに似つかわしくないほどファンシーな作品と装飾。かといって、メアリーが描いたにしてはあまりに整然とし過ぎている。しかしながら、彼女の思いとこの作品は全くの無関係とは言えないだろう。

 

『深海の世』に異なる世界を創ったように、ゲルテナは『メアリー』という作品の中に、単なる少女の絵ではなく、1人の「メアリー」という生命を創ってしまったのかもしれない。ゲルテナという画家が生み出した世界で、一人外の世界への憧れを抱えて生まれ、孤独に苦しむメアリー。

 

『あこがれ』は、そんなゲルテナの『メアリー』に反映する思いの片鱗なのかもしれない。彼女なら、こんな額縁を好み、こんな想像をするだろう...と。もしそれを意図的にしているのなら、これほど残酷なことはない。しかし、それが為せるのは天才画家ならではの所業であり、美術館に訪れる人たちには、そんな作品の叫びは到底聞こえるはずもない。

 

 


 

 

以上、メアリーについての考察をざっと書いてみました。

 

こうして文字に起こしてみると、プレイしただけでは至らなかった思いや気づきがあり、ibという作品、そしてメアリーに対する愛情が一層グッと深まります。

 

ただ、今回書いたこと以外にも、いくつか不明な点が残っているので、そちらについても後日ピックアップし、改めて考察を深めて行ければと思います。

 

最後までお読みくださった方、本当にありがとうございました。そしてもし、私と異なる考察をお持ちの方や、私の間違いに気づいてくださった方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にコメントください!

 

ibにて、メアリーの肖像画